人口減少社会のマーケティング |
人口減少が始まると、消費市場では量的な縮小が進むが、同時に社会構造や家族構造などの変質で質的な変化も進んでいく。量と質の両面から様々な変化が積み重なると消費者の生活パターンや行動などの価値観も大きく変化していくことになる。
こうした変化に対応していくことが、経営者には求められることになる。
1.消費市場の量的縮小
人口が減少すれば、当然だが消費者も減る。1人あたりの消費額が増えない限り、個人消費の総額は減少し、消費市場は縮小する。
2.消費市場の質的変化
一方、質的な変化は、人口減少に伴う需要構造の変化である。今後、日本において人口が減少していくのは、「少子・高齢化」というよりは「少産・多死化」のためと言える。つまり、出産適齢人口の減少により出生数が減少する一方、平均年齢の延長が限界に近づくためすでに長寿化した高年齢層で死亡数が急増する。その結果、2005年前後から死亡者数が出生者数を上回り、人口が減っていくことになる。こうした変化は消費市場に次のような影響を与えるものと思われる。
①少産化・・・子どもの数が減るため、赤ちゃん・幼児・子ども向けの市場が縮小する。建設業界への影響としては、「子どものためにマイホームを!」という需要が減少する。
②多死化・・・平均寿命がこれ以上伸び悩むと、その年齢に達した多くの高齢者層で死亡数が急増する。量的には介護、終末医療、葬儀、墓地の需要が拡大する。建設業界では、介護事業、葬儀場経営等の異業種への参入者が増えていく。
③長寿化・・・世界最高レベルの平均寿命となっていることから、高齢者層は今後もなお増えていくと思われる。高齢者層向けの市場は拡大する。建設業界では、高齢者向け介護マンション運営などへの参入者が増えていく。
④家族多様化・・・少産・長寿化は1人っ子世帯、1人住まい世帯を増やすので、家族規模を縮小させることになる。「大きな家より小さくても快適な家」へとシフトが変わる。また、「家族はこうあらねばならない」ということが言えなくなるため、家族形態の価値観の多様化につながる(あるデータによると、日本の家族形態は多世代家族や核家族などの世帯は減少しており、代わって単身者、DINKS、単親者世帯などの非伝統的な家族形態が多数派になってきていると言われている。今後、この傾向は強まり、2020年には60%を超えると予測されている)。
中小事業の建設業者は、上記の「④家族多様化」に向けた商品化・プレゼンテーションが重要だと考えられる。
例えば、「ペットが暮らしやすい家づくり、高齢者1人が住みやすい家づくり、女性1人でも安心・安全に暮らせる家、SOHOに向いた個人事業主が仕事ができて生活もできる家」などは、確かに大量生産に向いたものではないかもしれない。
しかし、建築士や建設業者が少し意識を変えるだけで、今までのノウハウを活かせる分野であるし、価格競争にさらされにくい利点もある。
マーケティングで重要なのは、こうした社会の微妙な変化や価値観の揺れをいち早く捉え、それらを商品化できることである。